身寄りのない子ども・若者の就職の際の身元保証人問題について

若者支援をしていてこの時期にとても多い相談が一人暮らしのためのアパート契約の保証人問題、そして次に多いのが就職の際の身元保証人問題です。

就職の内定をもらい一安心と思ったら、就職のための書類に身元保証人として親や親族のサインをもらってくるように求められるようなことがあります。

就職の際の身元保証人問題も基本的にはアパート契約の保証人問題と似たような問題ですがアパート契約の場合とは事情が異なる部分もあるため解説します。

※この記事では成年年齢を迎えている若者の就職を前提に解説します。未成年者の場合には、親権者による同意も問題となってきますが、そこの解説は今回割愛しています。

※アパート契約の保証人問題については以前に解説した記事があるのでそちらをご参照ください。

kiwi250r.hatenablog.com

そもそも身元保証人とはなにか?

これはその名の通り、就職の際にその人の身元がしっかりしている人であることを企業に保証するためのものです。身元保証人を求めるかどうかは企業の判断であり、就職の際に身元保証人を求めない企業もあります。

企業が身元保証人を求める場合に具体的にどのような役割や責任を求めるかは企業によって異なりますが、一般的に求められる役割として①緊急連絡先、②民法上の保証人があげられます。

「緊急連絡先」

就職の際に企業から求められる「身元保証人」の役割の多くはこれにあたります。本人に何か不測の事態が起きたり、連絡がとれなくなったとき等の緊急時に本人の代わりに企業と連絡を取り合うような役割が求められます。

「身元保証人」という名称を用いているけれど実際には、何かあったときの緊急連絡先という程度の役割しか求められていないということもよくあります。

「民法上の保証人」

民法446条に規定された本人の代わりに損害賠償義務を負う立場の人のことです。例えば本人が仕事で何かしらのミスをして企業に損害を与えてしまった場合、本人は企業に損害賠償義務を負うことがあります。そして本人が連絡がとれなくなってしまったり、お金がなくて損害賠償ができないような場合に本人の代わりに賠償義務を負うことになります。

もっとも、企業は従業員に対して監督責任を負っているため従業員が仕事上で何かミスをして企業に損害が生じたとしても直ちに従業員が企業に対して責任を負うとは限りません。

身元保証人に関する法律

就職の際の「身元保証人」については身元保証ニ関スル法律(身元保証法)という昭和8年に制定された古い法律があります。この法律は就職の際に「民法上の保証人」を求める場合の身元保証人の内容や責任について定めたものです。

ただ、この法律は就職の際の「身元保証人」を義務付けているわけではなく、企業が「身元保証人」を求める場合に保証人の責任が重くなりすぎないように責任の内容や範囲を制限することが狙いです。

実際には「民法上の保証人」としての「身元保証人」を求めてはいるけれど、ほとんど使われることがなく形骸化しているような例が珍しくありません。

また、近年の民法改正で個人の「民法上の保証人」を保護するために、保証人の損害賠償額の上限等が定められたため、ますますこの身元保証法に定められているような「身元保証人」求められることは少なくなっていくと思われます。

そもそも企業側もよくわかっていないこともある

企業の採用担当者もなんとなく「身元保証人」を求めてはいるけれど具体的にどのような役割を求めているかよくわかっていないこともあります。

「身元保証人」を絶対につけなければいけないという法律上の決まりはなく、就職の際に「身元保証人」を求めるかどうか、求めるとしてどのような役割を求めるかは企業次第です。

なのでまずはその企業に「身元保証人」とはどういう役割を想定しているのかを確認することをおすすめします。

「身元保証人」は親や親族でないといけないのか

身元保証人について親や親族にしなければいけないという法律上の決まりはありません。ですが、実際には親や親族を「身元保証人」として求められることがよくあります。理由はいくつか考えられます。

身元保証人はいざというときには連絡が取り合えないと困ります。友人、知人では本当に緊急時に対応してくれるのか心配が残ります。しかし、親や親族であれば責任を持って最後までやりとりしてくれるのではないか。そのように考える企業は少なくないと思います。

現実には家族のあり方も様々で親や親族だからといって必ずしもそうした責任あるやりとりができるとは限りませんし、親や親族に頼れないような人はどうすればいいのかという話になってしまいます。

このあたりは法律や企業の問題というよりも親や親族がいて当たり前、本人に何かあれば親や親族が責任を持って対応するものという価値観、考え方の根深さを感じます。

ただ、現実には身寄りのない方もたくさんいるため、事情を説明することで親や親族以外の人でも身元保証人として認めてくれる企業の方が多いと思われます。

とはいえ誰でも良いというわけではないので、緊急時に責任を持って対応してくれるような人に身元保証人になってもらう必要はあります。身近で頼れる人の場合には施設やアフターケア事業所等の相談員が代わりに緊急連絡先になっていたりもします。

まずは相談を

多くの企業ではどこも人材不足が課題とされていて、意欲のある人材はぜひとも採用したいと考えています。そのため「身元保証人」については事情を説明すれば柔軟な対応をして頂けることが多いです。

ただ、仕事内容によっては「身元保証人」を厳格に求める企業があるのも事実です。そうした企業の場合には、誰か信頼できる立場の人からの説明が必要な場合もあります。

いずれにしても就職の際に「身元保証人」でつまずきそうになった場合には一度、専門家や相談機関に相談してみることをおすすめします。