身寄りのない子ども・若者がアパート契約をする方法

子ども・若者からの相談の中でこの時期特に多いのが親や親族等を頼れず身寄りのない子ども・若者のアパート契約に関する相談です。ここ最近も同様の相談が立て続いていたので解説をしたいと思います。

 

※子ども・若者:概ね16〜20代くらいを想定しています。

 

親権の問題

民法では未成年者が契約等の法律行為をする場合に法定代理人の同意が必要とされます(民法第5条1項)。そのため20歳未満の子ども・若者がアパートの賃貸借契約をする場合には法定代理人である親権者の同意が求められるのが通常ですが、親を頼れない場合、まずここで躓くことになります。親権の問題については未成年後見人を選任することで対応が可能ですが、未成年後見人はすべての未成年者が当然に利用できる制度ではありません。

また親権者は未成年者の居所指定権を有しているため、未成年者が法的措置を経ることなく親権者の意向に反した形で単身生活を始めることには法的リスクが残ります。

※もっとも、2022年4月1日から改正民法が施行され成年年齢が18歳に引下げられるため、18歳以上の若者については親権の問題はなくなります。

 

保証人の問題

多くの子ども・若者がアパート契約をする場合に躓くのが保証人の問題です。保証人とは借主に賃料の不払い等があった場合に代わりに支払義務を負担する立場です。アパート契約では通常、保証人が求められます。これは親権とは別問題なので、成年年齢に達していても保証人が用意できず躓くことがあります(前記の未成年後見人は利益相反となるため保証人になることはできません)。

親や親族を頼れない場合であっても他に保証人を立てることができれば保証人の問題をクリアすることは可能ですが、金銭支払義務が生じるリスクのある保証人を他人に引受けてもらうのも決して容易なことではないです。

 

家賃保証会社とは

事情があり保証人を立てることができない人がよく利用するのが家賃保証会社です。これは家賃保証会社に一定の保証料を支払うことで家賃保証をしてもらい保証人の代わりとするものです。個人保証よりも家賃回収が確実なため、保証人ではなく家賃保証会社の利用が求められることも少なくないです。

家賃保証会社の実態は会社によって様々です。まだ収入や貯蓄の少ない子ども・若者の場合であっても利用できるところから、家賃保証会社とは別に保証人を求めてくるところ、条件が緩やかな代わりに保証料が高めなところまで様々です。保証人は不要でも緊急連絡先が求められることが多く、実際には支援者が緊急連絡先として名前を連ねることもよくあります。

不動産屋さんによって利用できる家賃保証会社が決まっているところもあれば、いくつか選択できるところもあるのでこのあたりも不動産屋さんに相談していく必要があります。

 

結局は不動産屋さん次第
色々前置きが長くなりましたが身寄りのない子ども・若者でもアパート契約ができるかは結局のところは不動産屋さん次第といえます。

実際に身寄りのない子ども・若者からの入居申込を一切受け付けようとしない不動産屋さんもあれば、未成年者でも親権者の同意や保証人なしで受け付けてくれる不動産屋さんもあります。ここは不動産屋さんによって様々なので、ひとつ、ふたつの店舗で断られても諦めず複数店舗を回っていく必要があります。

 

とはいえ実際問題として身寄りのない子ども・若者とのアパート契約は様々なリスクを伴うため対応してくれる不動産屋さんは限られます。不動産屋さんを回る場合には、地域密着型で大家さんに融通が効いたり、自社物件を持つ不動産屋さん、日頃から路上生活者等の住宅確保困難者への居住支援に理解ある不動産屋さん、後述する居住支援法人に登録している不動産屋さん等に相談してみるのが良いでしょう。

 

貸主側の事情
ここで貸主側の事情についても触れておきたいと思います。貸主側がアパートを貸す場合に懸念するのは賃料の不払い等のリスクです。

借主が賃料不払いのまま住み続けようとしたり、荷物等を残したまま連絡が取れない状態になってしまうことが起こります。法律では自力救済(勝手に鍵を交換したり、合鍵で部屋に入って荷物を撤去すること)は禁止されているため、貸主側は更に時間と費用をかけて裁判手続を取る必要があります。そして、この間はその部屋は誰にも貸すこともできないため貸主にとっては大きな損失となってしまいます。

 

子ども・若者の賃貸トラブルも決して少なくないのが実情です。はじめは気前よく貸してくれた不動産屋さんでもその後トラブルが起こり、以後は子ども・若者の入居に慎重になってしまうということもあります。

部屋を借りようとする子ども・若者はそうしたリスクや厳しい条件の中でも信用して貸してもらっているということは意識しておく必要がありますし、そうした心配がない人だと不動産屋さんに信頼してもらえるかが重要といえます。

 

また、支援者としては日頃から地元の不動産屋さんと交流を持ち理解と協力を得るように努めると共に、貸してもらった後のフォローも行い良い関係を築いていく必要があるでしょう。

 

公的居住支援の拡充を
現状では身寄りのない子ども・若者がアパート契約をするためには支援者個人がリスクを背負うか、貸主側がリスク承知で引受けるしかないという個人負担に依拠している現状は歪に感じます。ここはもっと公的居住支援の拡充が必要ではないかと。

国の制度として児童養護施設等の施設長が保証人になった場合の保証債務を填補する制度等もあり近年、拡充されていますがあくまで支援者個人が負担する構造を前提にしたものであり、すべての子ども・若者が万能に使える制度ではないです。

最近では住宅セーフティネット法に基づく『居住支援法人』による居住支援の取組が進んでいて子ども・若者向けの居住支援の取組もみられるようになってきました。子ども・若者の居住支援特有の難しさ等もあるのでなかなか容易ではないと思いますがこうした取組が全国に広がっていくことを願います。

 

まとめ
結論として身寄りのない子ども・若者は絶対に単独でアパート契約ができないのかと聞かれればそんなことはないけれどハードルは高いという回答になります。アパート契約が難しそうだからという理由でシェアハウスや住込み就労の利用が検討されることもありますが、これらの方法に安易に飛びつくことはおすすめしません。

もっとも、実際にアパート契約ができるかは不動産屋側の事情に加えて、その子ども・若者の年齢、収入、貯蓄、定職or学生か、希望地域、希望する物件条件、親や親族を頼れない理由等も影響してきますし、不動産屋との交渉場面への支援者の同行の有無、説明の仕方等の影響も大きいです。

契約という性質上、どうしても借主、貸主それぞれの個別的事情に左右されるところもあり残念ながらこの方法を用いれば絶対に大丈夫という魔法の杖的な解決策は現状ありません。なので身近で居住支援に詳しい方に相談のうえ、個別に具体的状況を説明しながら一番適切な方法を都度、一緒に考えていくしかないとは思います。